頬ひげホイスカーズ ( ゜д゜)ハッ!匹目
2005年12月24日 Fictionそうか。伝わりにくかったかな。ならば一つ例を示してみるとしよう。
そう言った私は、おもむろに彼の手首の辺りを軽く小突いた。
いや、すまないすまない。そう怒らないでくれよ。別に君に危害を加えたかったわけじゃあない。言っただろ? いま例を示すって。そう。それがまさにそうなんだよ。
いま君は手首に「痛み」を覚えたね? それは間違いないかな? 間違いないね。うん、よかった、よかった。って、いや、だからそうすぐに怒り出さないでおくれよ。昔から使い古されてはいるけども、短気は損気、すぐに説明するからさ!
…で? どうだい。君は手首が「痛い」と言うことを知ってはいる。が、さて、君はその痛みをどうやって知ったのかを果たして知っているのかな?
痛いモンは痛い。間違いなくその通りだね。ある意味では僕も君と同意見さ。
でも、それじゃ面白くないだろう? それに単にコレを「痛いから」で済ませてしまったらさ、それこそ僕も君も殴り殴られ損で終わってしまうよ!
そうだな…。じゃあ少し視点を変えてみようか。
君は僕を知っているね。それは何故?
そ、知り合いだからだね。五感をフルに使って…僕はそのつもりさ。君もそうしてくれ。
僕は君を見て、聞いて、触って…味覚と嗅覚は端に置いておこうか。間接的な話になるからね。
君が僕を知っているのは、いろいろな要素を駆使して、君が僕を知ったからだ。代表的なのは視覚ってことになるのかな。もちろん会話も重要だね。
さて。ここで君の手首の「痛み」に話を戻すよ。
君は僕が見える。けれども、少なくともその「痛み」という代物は決して誰の目にも見えはない。どんなに手首をマジマジと観察したところで、そこに「痛み」が浮かび上がってくるなんて事は天地がひっくり返っても起こりはしない。
ん? 僕の指の痕が赤く残っているじゃないかって? 頼むよ、屁理屈はよしてくれ! それは確かに「痛み」を視覚的に表現し得るものだけれども、それはただ表現できるというだけで「痛み」そのものではないよ。…え? ああ、念のため確かめただけだったのかい! …まあいいさ。時間はまだまだたっぷりあるんだからね。
でもその見解は大事だよ。確かに手首には痣が残る…今回は残らないよ。そんなに強くしてないからね。例えばそれがエスカレートして、なんとしてでも「痛み」を探そうと躍起になったとしようか。それで仮に痣の残る手首の皮をメリメリと剥いで、彫刻刀で肉を抉って、生物学的に「痛み」が走る「神経」を剥き出しにしたとしても、そこに「痛み」が見えると思う? ないね。血が出るだけだよ。本来の目的は果たされず、ただ現実を突きつけられるという生々しい成果を掴むだけさ。
なによりも痛いしね!
――判ったし、判ってた。
…やっぱり君、面倒くさい性格してるよ。まったく…。ここまでやらせたんだ。そうだとしても最後まで付き合ってもらうからね?
…うだうだ言わない。
私は彼の手首を、今度はぐーに握った拳で「軽く」殴った。
そのように、君が何かを「痛い」と思っても、だ、そこには「痛い」という事実があるにすぎない。いわばこういったものは僕らの現実に「ある」が「ない」ものなのさ。
そして「世の中」にはあるがないものがとにかく満ち溢れ過ぎている。僕の「快感」も同じさ。僕の持つ世界、僕が感じ入る世界のどこを探索しても、求める快感を目にすることは出来ない。とりわけ、この在るが無い性質を持つものは、僕たち人間が特に多く所有している気がしてならないよ。
難儀なものさ。もっとシンプルなら…いや、いや、それは違う。なんだかんだと言ってコンプレック性は必要だ。じゃなけりゃ退屈で仕方が無いし、何より退屈を感じることさえも出来ない!
これまでの話からはちょっとだけズレるんだけど、すぐに戻るから我慢してくれ。ときどき僕は酷く不思議に思うことがあるんだよ。手首を擦りながら聞いてくれて構わないよ。今度のはちょっと力を入れたんだからね。
言わずもがな、僕らは空間を占有しているからこそ、生きていられる。つまり人間は空間を占有して生きる。人間が肉体を持つことがその好例さ。生きている限り、僕らはある程度のスペースを世界に要求する。
…そして、その要求は絶えず行なわれ続けている。人間は貪欲な生き物さ。物品、食物、性欲を満たす物、金品、地位、なんとなく欲しい物…とにかく、なんでもかんでもの欲しがり屋。それが人間さ。人の根源的な欲求も三大欲求じゃ収まりきらないんじゃないかな。上位、上位と呼んで良いものかどうか微妙なところだね、まあどうでもいいかな。上位の欲求を根源的な欲求に格下げする日も…なんか可笑しいな。蛇足だし、これはもういいか。
で、さ。それは、それっていうのは人間の貪欲さってことなんだけど、それってきっと空間に対しても同じことなんじゃないかなって、僕は常々考えてきたんだよ。
人は月日を重ねるにつれて成長する。つまりは占有する空間を増やすわけだ。成長が止まったとしても、なおも人は様々な手口で自領域を拡大しようとする。人との交流もその一つだね。重なっているとしても、それは紛れも無く、ふたり、あるいはもっと多くの人たちのものだろう。
爪が伸びるのだって怪しいものさ。これこそなかなか優秀なテリトリーの拡大方法だと思わない? 僕らはそれに気がついていないだけで、実は肉体は爪を切ることを良しとしていないのかもしれない!
僕らは空間を自分の領有地として、さらにその触手を伸ばし続ける。持論の仮説だけどね。
そして僕らが血眼になって蒐集する「空間」という概念が確かにそこにあるからには、もしかしたら、さっき話に出てきたね。例の「在るが無いもの」ばかりが寄り集まって構成されている空間なんてものも、あるいは存在するんじゃないかって、ね、僕の疑問って言うのは、まさにそこさ。そう考えると、はじめの疑問も案外上手く説明できるってことに気づいたんだ。
僕らは自分の空間を拡張しようと常に神経を尖らせているとしよう。そして目には見えないけれども、そこいらの空間には「在るが無いもの」の空間がたよりなさげに漂っているんだ。
そこで僕が音楽を聴く。すると「快感」が僕の空間に繋がった(僕が無意識に繋げた、というべきかな)「在るが無いものの空間」から、その僕だけの「快感」としてついに流れ込んでくる。僕だけのとしてのは、そのとき感じた快感を知っているのは少なくとも僕だけだと僕は思っているからで、無論それは目には見えない。が確かに僕はそれの存在の事実を知っている。それは明らかで、確かなことで、僕が否定しない限り、その事実が偽になることはないんだ。
飛躍した仮説だって事は理解しているさ。でももう時間が無い。そろそろ僕は行かなきゃあなら無い。僕はそれを探しに行きたい…。
そう言った私は、おもむろに彼の手首の辺りを軽く小突いた。
いや、すまないすまない。そう怒らないでくれよ。別に君に危害を加えたかったわけじゃあない。言っただろ? いま例を示すって。そう。それがまさにそうなんだよ。
いま君は手首に「痛み」を覚えたね? それは間違いないかな? 間違いないね。うん、よかった、よかった。って、いや、だからそうすぐに怒り出さないでおくれよ。昔から使い古されてはいるけども、短気は損気、すぐに説明するからさ!
…で? どうだい。君は手首が「痛い」と言うことを知ってはいる。が、さて、君はその痛みをどうやって知ったのかを果たして知っているのかな?
痛いモンは痛い。間違いなくその通りだね。ある意味では僕も君と同意見さ。
でも、それじゃ面白くないだろう? それに単にコレを「痛いから」で済ませてしまったらさ、それこそ僕も君も殴り殴られ損で終わってしまうよ!
そうだな…。じゃあ少し視点を変えてみようか。
君は僕を知っているね。それは何故?
そ、知り合いだからだね。五感をフルに使って…僕はそのつもりさ。君もそうしてくれ。
僕は君を見て、聞いて、触って…味覚と嗅覚は端に置いておこうか。間接的な話になるからね。
君が僕を知っているのは、いろいろな要素を駆使して、君が僕を知ったからだ。代表的なのは視覚ってことになるのかな。もちろん会話も重要だね。
さて。ここで君の手首の「痛み」に話を戻すよ。
君は僕が見える。けれども、少なくともその「痛み」という代物は決して誰の目にも見えはない。どんなに手首をマジマジと観察したところで、そこに「痛み」が浮かび上がってくるなんて事は天地がひっくり返っても起こりはしない。
ん? 僕の指の痕が赤く残っているじゃないかって? 頼むよ、屁理屈はよしてくれ! それは確かに「痛み」を視覚的に表現し得るものだけれども、それはただ表現できるというだけで「痛み」そのものではないよ。…え? ああ、念のため確かめただけだったのかい! …まあいいさ。時間はまだまだたっぷりあるんだからね。
でもその見解は大事だよ。確かに手首には痣が残る…今回は残らないよ。そんなに強くしてないからね。例えばそれがエスカレートして、なんとしてでも「痛み」を探そうと躍起になったとしようか。それで仮に痣の残る手首の皮をメリメリと剥いで、彫刻刀で肉を抉って、生物学的に「痛み」が走る「神経」を剥き出しにしたとしても、そこに「痛み」が見えると思う? ないね。血が出るだけだよ。本来の目的は果たされず、ただ現実を突きつけられるという生々しい成果を掴むだけさ。
なによりも痛いしね!
――判ったし、判ってた。
…やっぱり君、面倒くさい性格してるよ。まったく…。ここまでやらせたんだ。そうだとしても最後まで付き合ってもらうからね?
…うだうだ言わない。
私は彼の手首を、今度はぐーに握った拳で「軽く」殴った。
そのように、君が何かを「痛い」と思っても、だ、そこには「痛い」という事実があるにすぎない。いわばこういったものは僕らの現実に「ある」が「ない」ものなのさ。
そして「世の中」にはあるがないものがとにかく満ち溢れ過ぎている。僕の「快感」も同じさ。僕の持つ世界、僕が感じ入る世界のどこを探索しても、求める快感を目にすることは出来ない。とりわけ、この在るが無い性質を持つものは、僕たち人間が特に多く所有している気がしてならないよ。
難儀なものさ。もっとシンプルなら…いや、いや、それは違う。なんだかんだと言ってコンプレック性は必要だ。じゃなけりゃ退屈で仕方が無いし、何より退屈を感じることさえも出来ない!
これまでの話からはちょっとだけズレるんだけど、すぐに戻るから我慢してくれ。ときどき僕は酷く不思議に思うことがあるんだよ。手首を擦りながら聞いてくれて構わないよ。今度のはちょっと力を入れたんだからね。
言わずもがな、僕らは空間を占有しているからこそ、生きていられる。つまり人間は空間を占有して生きる。人間が肉体を持つことがその好例さ。生きている限り、僕らはある程度のスペースを世界に要求する。
…そして、その要求は絶えず行なわれ続けている。人間は貪欲な生き物さ。物品、食物、性欲を満たす物、金品、地位、なんとなく欲しい物…とにかく、なんでもかんでもの欲しがり屋。それが人間さ。人の根源的な欲求も三大欲求じゃ収まりきらないんじゃないかな。上位、上位と呼んで良いものかどうか微妙なところだね、まあどうでもいいかな。上位の欲求を根源的な欲求に格下げする日も…なんか可笑しいな。蛇足だし、これはもういいか。
で、さ。それは、それっていうのは人間の貪欲さってことなんだけど、それってきっと空間に対しても同じことなんじゃないかなって、僕は常々考えてきたんだよ。
人は月日を重ねるにつれて成長する。つまりは占有する空間を増やすわけだ。成長が止まったとしても、なおも人は様々な手口で自領域を拡大しようとする。人との交流もその一つだね。重なっているとしても、それは紛れも無く、ふたり、あるいはもっと多くの人たちのものだろう。
爪が伸びるのだって怪しいものさ。これこそなかなか優秀なテリトリーの拡大方法だと思わない? 僕らはそれに気がついていないだけで、実は肉体は爪を切ることを良しとしていないのかもしれない!
僕らは空間を自分の領有地として、さらにその触手を伸ばし続ける。持論の仮説だけどね。
そして僕らが血眼になって蒐集する「空間」という概念が確かにそこにあるからには、もしかしたら、さっき話に出てきたね。例の「在るが無いもの」ばかりが寄り集まって構成されている空間なんてものも、あるいは存在するんじゃないかって、ね、僕の疑問って言うのは、まさにそこさ。そう考えると、はじめの疑問も案外上手く説明できるってことに気づいたんだ。
僕らは自分の空間を拡張しようと常に神経を尖らせているとしよう。そして目には見えないけれども、そこいらの空間には「在るが無いもの」の空間がたよりなさげに漂っているんだ。
そこで僕が音楽を聴く。すると「快感」が僕の空間に繋がった(僕が無意識に繋げた、というべきかな)「在るが無いものの空間」から、その僕だけの「快感」としてついに流れ込んでくる。僕だけのとしてのは、そのとき感じた快感を知っているのは少なくとも僕だけだと僕は思っているからで、無論それは目には見えない。が確かに僕はそれの存在の事実を知っている。それは明らかで、確かなことで、僕が否定しない限り、その事実が偽になることはないんだ。
飛躍した仮説だって事は理解しているさ。でももう時間が無い。そろそろ僕は行かなきゃあなら無い。僕はそれを探しに行きたい…。
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