洞穴

2009年4月19日 Fiction
寝床だ。ここは。起きて、それと知れた途端に違和感は襲う。
足先から胴に近い側の首の付け根まで、それより上にある部分とが別々のものとして分かれ離れ、だが変わらず一体を共有している、繋ぎ合わさって一つの人体を形成しているかのような、ここにいるのかいないのか、はっきりしない、この疼きにも似たむず痒さの正体には見当がついた。つまるところ原因はベッドの置かれている向きだ。
意識下に刷り込まれた体の向きをまだ新品に近いこのベッドのそれと同じ方向にし、自分がいまどこにいるのかを思い出して、まず目に入ったものは鏡だった。アーモンド形の額縁に収められた装飾に乏しい小さな鏡が、白い壁紙の上に備え付けられている。わたしは毎朝これを見る。
泣き声が聞こえた。わたしのでは無い。わたしののでも無い。おそらく隣ののだろう。あれはしばしば朝方なきだすことがあった。
そうして、馴染むにはもう少し時間の要るベッドの上でわたしは身を起こした。いつのまにか泣き声は喚き声に代わっていたのだが、気にしない。関心を持ってはいけない。そんな気がしていた。
しかし鏡は、そうでもないようだった。

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